29「歳月」

 土曜日午前2時、外に出て思わず足を止めてしまった。澄み渡るような星空、いくつかの偶然が重なったのか、この時期ここまで透明感のある星空は珍しい。滲むように輝くプレアデス星団の星が4、5個はっきりと見える。少し軽くなった足取りで家を出発した。
 センターに向かう車の中で昨日まで居た娘を想う。一抹の寂しさあり。旅行後そのまま帰省し1週間ほど滞在、その間、まごやさいの仕事を手伝ったりクラブのOB会に顔を出したりしていたが、半日だけ僕と一緒に行動した。行先は近くの山、そこには以前体験イベントで使っていた手作りの公園があり、ここ数年使っておらず状況が気になっていた。娘もこの公園のことがやはり気になっていたようで、帰省する前から一度行ってみようと話がまとまっていた。

 火曜午後2時、軽バンに鎌と一輪車を積んで出発。一輪車は公園に置いている資材を回収するために用意した。山の入口から鎌が活躍、生い茂った雑草が最近誰も通っていないことを物語っていた。一輪車の通り道を確保しながらしばらく進むと急に雑草がなくなり見慣れた林間の小道が現れた。はじめは植林されたヒノキ林、その後は昔ながらの落葉広葉樹の森となり、娘は小枝でクモの巣を払いながら先導、僕は一輪車を押した。

 予想に反して公園に至るまでの光景は以前とほぼ変わらず、踏み固められた道がそのまま残っており快調に進むことが出来た。30分もかからずに公園到着、こちらもほぼ昔のまま保たれていた。木の間に作ったブランコの椅子が少し高い位置になっていることに流れた歳月を感じた。

 長年放置されていた山を使って公園を作ろうと思ったのが10年前の1月、4月のイベント初回に間に合わせるため真冬に何度も山に入り、立木を伐採し、下草を刈り、遊具を作った。2台のブランコと小さな谷の上を渡した数本のロープ、2本の木を使った大きな梯子、たったそれだけ。公園と呼ぶにはおこがましいものだけど、来てくれる子どもたちの姿を想像しながらの作業は楽しかったし、希望に満ちていた。もちろん娘も何度も一緒に山に上がり作業を手伝った。そんな昔を思い出すようにブランコをこいでいる娘を見て、積み重なった歳月を実感した。

 資材を回収し、軽トラの場所まで下りて時計を見るとまだ3時過ぎ、川を回って帰ることにした。こちらは「子ども夏合宿」最終日の恒例行事にした「川登り」の場所。5分ほどで到着、豪雨の影響で道路のアスファルトは剥がれ、川の斜面が一部崩れていた。川登り出発地点に立って水をすくい顔を洗うと本当に気持ちよく、二人顔を見合わせ、靴のまま川に入り上流に向かって歩き始めた。谷川を渡る風は天然のクーラーとなり汗一つかかない。ここは流れが変わっている、とか、ここでサンショウウオを見つけたなどと話しながらいつの間か約30分、結局川登りのゴール地点まで行ってしまった。

 娘の運転で家に到着し全て終了。なかなか良い半日だった。

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